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2025-05-25:夏に向けて、水中運動のリスク管理
パリ万博でエッフェル塔が建設され、世界中の注目が集まる1880年代後半のフランス。ある日、パリのセーヌ川で少女の遺体が引き上げられました。危害を加えられた痕跡はなく、自ら命を絶ったものと思われました。少女の身元が確認されなかったため、当時の慣習にのっとり、「デスマスク」が残されました。微笑を浮かべたようにも見える少女の繊細で美しい顔は、その後、少女の死に関する様々な憶測を生み、ロマンティックな物語がヨーロッパ中に広まりました。
時が過ぎて1960年代に入り、「セーヌ川の少女」の話に感銘を受けたオスムンド・レールダルというノルウェーの玩具メーカーで働く人物が、2度と悲劇が繰り返されないようにという想いを込めて、この少女のデスマスクをモデルにした心肺蘇生訓練用のマネキンを開発しました。実物大の人体模型があれば、救急救命を学ぶ人たちの励みになるであろうと考えたからでした。通称「Little Anne(リトルアン)」と呼ばれるこのマネキンは、その後世界中に広まり、今日でも、多くの命を救うために貢献し続けています。

心肺蘇生訓練用マネキン リトルアン
皆さん、こんにちは。健康相談室の永松です。次第に暑さが強まるこの時期、TAC取手グリーンスポーツセンター(グリスポ)では毎年、館内点検日を利用して、屋内外のプール清掃を行います。綺麗になったプールを眺めると、「もうすぐ夏」という気分になります。夏は、開放的な雰囲気の中で水中運動を楽しむのに最適な季節であると同時に、水の事故が一番起こりやすい時期でもあります。スタッフとしてできる限り事故のリスクを減らすため、先日私は、今年も取手市消防本部で普通救命講習会に参加し、冒頭に紹介させていただいた、「リトルアン」を使った救急救命のトレーニングを受けてきました。
取手市では、救急車の出動が、年間約6,500件程あるそうです。1日あたり20件弱。普通救命講習会を受けていた3時間程の間にも、救急車出動のアナウンスが数回流れました。これらの中には些細な呼び出しもあれば、心筋梗塞や脳梗塞などの一刻を争う呼び出しもあるそうです。
救急車が現場に到着するまで、取手市平均で約9分。傷病者の心肺機能が停止した場合、8分間何もしなければ、救命の可能性は10%以下に下がります。グリスポに最も近い救急車は、戸頭消防署に配車されていますが、そこからでもグリスポ到着まで、道がすいていたとしても3~4分はかかります。その間、現場に居合わせた人が救命処置をすることができれば、傷病者の生存率は大幅に高まります。
水中運動では、水に入ることで血圧の変動が起こります。また、水の中でヒトは呼吸をすることができません。そのため、陸上運動に比べて、水中運動では呼吸循環器系の事故は起こりやすいといえるでしょう。これから夏本番に向けて、プールで遊ぶことを楽しみにされている方も多いと思います。水に入る時は、始めに少しずつ水慣れをしながら入水する。疲れている時は、水に入らない。ちょっとした注意をすることで、水の事故は減らすことができます。
この夏も、安全に、楽しく、グリスポのプールをご利用いただけますようお願いいたします!
参考資料
- The History of CPR Manikin Little Anne, Posted by By Jeremy Grange BBC News on Feb 14th 2020, The History of CPR Manikin Little Anne - SAVING AMERICAN HEARTS INC
- レールダル, 2020年、レサシアンは60回目の誕生日を迎えます。 | Laerdal Medical
- 改定6版 応急手当講習テキスト 救急車が来るまでに, 2023年9月5日, 一般財団法人 救急振興財団